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ふたつの顔を持って街をあたたかくする~六軒町~

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昔、沼津の新仲店商店街を越えると六軒お店があり
活気にあふれていたという話があった。
今でもタクシーを呼ぶときに“六軒町”というそうだ。

その話をオーナーが聞いて
またその活気を取り戻したいと昨年オープンしたお店がある。
その名も“六軒町”

何年も空いていた物件を借り
通りに明るい雰囲気を作り出した。

六軒町は夕方17時まではおにぎり専門店、
夜はお刺身や天ぷらなど和食がメインの居酒屋となる。

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昼と夜の顔は一転、
同期の昼間の店長井口さんと夜の店長真野さんは親子ほど年が離れているが
仲が良く、時間帯が違い会うことも少ないのだがお互いをフォローし合っているそう。

昼間のおにぎり専門店はなかなか珍しい。
お米もお米屋さんに相談し一番おにぎりに合うものを、
そしてガスのお釜で炊き上げ、保温にも注意を払っている。
お持ち帰り用ののりはぱりぱりになるように巻かないという徹底ぶり。

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メニューも約30種類。
中には塩からバターなど珍しい具も。
全部試したくなるような具はオーナー自ら色々な店を周りおにぎりを食べ
試作を繰り返し考えたもの。

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オーナーの山田さん、
おにぎりという日本のソウルフードを選んだ理由。
“おいしいおにぎりを食べるとほっこり幸せな気分になるじゃないですか”
シンプルだけどとっても優しい答え。

コンビニにはない、だれが握ったかわかるおにぎりは安心感がある。

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さらに
プラス200円でお惣菜をセットにできる。
味噌汁やお漬物、小鉢がつく。
スタッフには主婦の方が多く、メニューもみなさんで考えて作るそう。
家庭のあたたかな味が楽しめる。

スタッフの人数も多めなのだが
主婦が多い職場。お子さんや家庭で何かあった時にみんなでシフトを回していけるようにしています。
それもスタッフにお任せ。

女性オーナーならではの気配り。
おにぎりを握る手はいるもあたたかい。

そして夜。
沼津のレストランで料理長を務めていた真野さんが
本格的な和食を提供。

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奥の座敷はゆっくりとくつろいでもらえるように1日1組、時間制限なし。
おいしい料理をリーズナブルな価格で気軽に楽しんでもらいたいとのこと。
バリエーション豊かなメニューはただ今考案中。
ゆっくりと仲間たちと楽しむ空間はまた昼とは違うあたたかさを持つ。

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昼夜、二つの顔を持つお店“六軒町”
そして昼も夜もこの通りを明るく照らす。

≪六軒町≫
沼津市町方町35 鈴佐本店ビル1F
TEL:055-963-8839


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家族のあたたかみの中で~つじ写真館~

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沼津銀座に店を構えるつじ写真館。
ここでの商売の歴史は長く、古くは御用邸に炭を納めていたという。
写真館を始めたのはご主人、辻泰男さんの代から。
泰男さんはこれから先、何か手に職をつけなくてはと考え、富山県のネギシ写真館へ修業に出る。
8年半の修行。
ご主人は修行先で奥様と知り合い、技術と共に笑顔が溢れる写真館になるであろうパートナーと生まれ育った商店街に戻ってくる。

“写真屋はお客様に気持ち良くなって帰ってもらうために雰囲気を盛り上げることが大事なんです”

インタビューに答えていただいたのは奥様の辻栄子さん。

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栄子さんはご主人と共に写真館を長年守ってきた。
つじ写真館のお客さんは七五三や入学、卒業などといった記念写真の撮影が多い。
撮影の緊張から硬い表情になりがちなお客さんを和ませ、リラックスした自然な笑顔を引き出すことがいい写真を撮るコツだそうだ。人生の大事な場面を写真という形に残すことに大きなやりがいを感じるとともに責任も感じるという。

“20年後、見直した時に嬉しくなるような写真を撮らなくてはいけないんです”

何年経っても記念写真のなかにはその時の感情や想いが変わらず収められている。
写真の一枚一枚にストーリーがあるんです、栄子さんは写真を見つめながら嬉しそうに語る。

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現在、ご夫婦のほかに3人の娘さんたちも手伝い、家族5人で写真館を切り盛りしている。
家族5人でやっているから5通りの考え方ができる。いざとなったときは家族だから団結できる。
家族経営の強みを栄子さんは語る。

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“手伝ってとか言ったことはないんですけど、自然と集まってきた感じです。やっぱり家族ですね”

家族と言えば忘れてはいけないのがミニブタのさくらである。
さくらが来たのは今から12年前、それ以来つじ写真館のマスコットとしてテレビや新聞など各メディアに露出。
さくらを目当てに訪れるお客さんもいるとのことだ。

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つじ写真館から感じる温かみや居心地の良さは家族が持つ温かみである。
お客さんはまるで家族の一員になったかのように迎えられ、人生の節目を一緒になって祝う。
一枚の写真が物語るストーリーはいつまでも色褪せることはない。

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≪つじ写真館≫
沼津市上土町36
TEL:055-962-1384

食堂からカフェに想いをつなげて~Cafe&Gallery Fran~

沼津駅北口から徒歩5分。
ビルの2階。
エレベータを降りると真っ白な廊下が現れる。
どこか昔懐かしい学校の廊下のよう。

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中に入ると奥にギャラリー、
真ん中に雑貨、そして窓側にカフェスペースが広がる。

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真っ白な壁にコンクリートの床。そこにあたたかな明るい木の家具が並ぶ。
窓から差し込む光も心地よい。
まるで北欧のカフェに来たような錯覚に陥る。

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机の上には小さな花がそれぞれ置いてあり、
床にドライフラワーや動物の置物、壁には絵。
気付きにくいところまできめ細やかさが光る。

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ここは、2人の姉妹が運営している。
両親の持っていたビル。
証券会社が入っていたのだが退去した。
そのスペースがもったいない。
空きスペースの有効活用にギャラリーをやってみようということになり、
それだったらお茶をするスペースも!ということで今の形になった。
ただの雑多な事務所は素敵な場所へ。

3つの顔を持つお店。
もともと雑貨が好きだった姉の加藤睦美さんが雑貨や洋服などをセレクト。
妹の今野智子さんはコーヒー修行に出た。
妹の智子さんにお話しを伺った。

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ここはお茶だけでなくランチやカレー、パスタなどのご飯を楽しむこともできる。
おいしいものだけを出したい。グルメなお二人、素材にもこだわり
パスタは淡路島のものを使用している。

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というのも実はここでご両親が40数年食堂をやっていたのだ。
70歳近くになり両親は引退した。
その姿を見て育った二人。
“ちょっとカフェごはんって感じよりも定食に近いのかしらね”
と。ボリューム満点で、しっかりとした味はオシャレな空間と相まってほっと癒される。
今もお母さんも一緒にキッチンに立っている。
お母さんのこだわりがちゃんと引きがれた味は
若い人からご年配の方まで引き付ける。

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それまではそれぞれお堅いところで仕事をしてた。
“楽しいことを好きなことを仕事にしてみたいと思ったの
 母は料理が好き。その仕事をしてる姿をずっと見てたから。
 大好きなことを仕事にできることは幸せ、もちろんそれには努力も必要だけどね”

取材に行ったこの日はちょうど智子さんは雑貨の買い付けに出ていた。

“ここって決まりがないのでなんでも対応がきくのがいいところかな”

だからいろいろな人とつ繋がってお店ができていっている。
ギャラリーで個展が開かれかれたり、
その中で、お店に作品を置くようになったり
お客さんの提案で新しい企画が出来たりするそう。

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12月にオープンしたばかりのCafe&Gallery Fran。
未来はどうなるのか、誰もがその一つのつながりになれるような場所だった。

≪Cafe&Gallery Fran≫
沼津市高島町3-4 加藤ビル2F
TEL:055-941-7338
http://fran0511.jimdo.com/


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絵が教えてくれた自然の美しさ~ギャラリー木耳~

焼き肉やの看板の横にもう一つ
ギャラリーの看板がある。

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何ともアンバランスな看板の先を覗くと無数の絵が並ぶ。
張り紙を見るとどうやらこちらは入口ではないようだ。

店の横の狭い通路を覗くと“ここから”という文字が見える。

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その文字に導かれ進むと普通の玄関が。
チャイムを鳴らしてみたが壊れているようなので
おそるおそる開けてみる。
すると奥から人が出てきた。
拍子抜けするほど明るく迎えてくれた。

どんな人が出てくるのだろうと身構えていたのでほっとした。
このギャラリー木耳の画家、本田照男さんだ。
室内には沢山の絵と画材が所狭しと置いてある。

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もともと焼き肉店だった店内の一部なので
換気扇カバーがついたまま。

友人が送ってくれた画集をきっかけに
60歳になって急にどうしても絵を描きたくなり
焼き肉店を辞めた。

そこから8年間、365日絵を描き続けている。
細いペンを中心に、アクリル絵の具、油絵具、そして鉛筆やパステルなど子供も使うような画材を使い

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細かい線が特徴の絵を多く書く。
モチーフは自然が多い。富士山も多く描かれていた。

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“人は生きていると不安やつらいこともあります。でも私は絵を描くと心が落ち着き静かになる。
 そうすると絵を描く対象をじっと見る。昆虫の模様の美しさ、山々の壮大さなど自然ってすごいな~と思う。
 それが楽しい”

絵を描くことで季節の移ろいを敏感に感じることが出来る。
43年間続いた焼肉店。
沢山の人に支えられ人気店だったそう。
今もまだ間違えて予約の電話が来るほど。
その看板とともに新しい視野が広がる画家活動。

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繊細で、でも力強く、カラフルな色が心を躍らせる本田さんの絵は
恵まれた自然がある沼津にいることを教えてくれる。

“ここ”というランプが光っている日はアトリエにお邪魔することができる。
もちろん絵の購入も出来るそうなので気になる絵があったら相談してみるとよい。

嵐の日は嵐の日らしく美しい。
春の日は春の日らしく美しい。

60歳から始めた絵は歳なんて関係なく
来る日も来る日も発見し、敏感に美しさを感じている。

≪ギャラリー木耳≫
沼津市旭町42-6
TEL:055-962-9800


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川を眺めながら心地よい音を愉しむ日~THE BLUE WATER~

窓の外には流れる川。
そこには気持ちよい風が流れる。
その川に面するように“ブルーウォーター”というお店がある。

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オーナーの天野さんは
新卒で洋服屋で働きはじめた。
今でいうセレクトショップのようなお店。
とてもよく売れる店だった。だが、お客さんたちからこんな声を聞くようになる。

“たくさん買うのはいいけれど着て行くところがない”

服は人を意識するところから始まる。

それから月一で近くの飲食店を借りパーティーを開く事にした。
ネクタイやジャケットなどドレスコードを決めて。

そんな時、毎回場所を探してやるのではなく新しいお店を作ろうということになった。
だったら、飲食店もやってしまおう!
ライフスタイルを提案する場をつくっていくことに。

その決意から会社を辞め飲食店にノウハウを学びに修行に出た。
そして1年後、仲間とカフェとアパレルを融合した店をオープンさせたのだ。
今でこそカフェとアパレルや雑貨が同じ場所にあるスタイルはなじみがあるが
その当時はそんな店はなかった。

そんな中、シェフは雇っていたのだが
ある日突然シェフが来なかった。
だが予約は入ってるし、お店を開ける限りお客さんは来てしまう。
そこで天野さんがメインでキッチンを担当することになる。
飲食店に修行に出たとはいえコックになるためではない。

その時に、魚屋に魚のさばき方を習いに行ったり、八百屋に野菜のことを聞きに行ったりした。
そうして2年くらいがったたのだが、もともとコックになりたかったわけじゃないということで、その店から離れ自分の店を創る決意を持つ。

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最初は飲食店から、そしてそのうち物販をしようと決めていた。
店舗を探すとき、一番大事することを“環境”と決めた。
普通だったら人通りや設備などを第一優先にするかもしれない。

そうではなく“自分の家を探すような感覚”で。

一瞬いる場所ならいい。でも長居をする場所だからこそ気持ちの良い空間でありたい。
だから何よりも窓から見える景色など環境を重視した。

場所探しは神奈川を中心に1年以上かけた。
なかなか見つからない中、親戚の紹介で今の物件を紹介された。
沼津もあんまりピンとこないし、親戚の紹介だし、でもとりあえず見ることに。
案の定、建物はボロボロ、天井は低いは階段は錆びている。
だが、中に入っていくと大きな窓の外に川がドーンと。
その景色を見た瞬間“ここでやってみよう”と思ったそう。

狩野川のようにゆらゆらと水が湛えている川は数少ない。

川が見え、空が抜ける。
マーケティングは一切しなかった。
地元の人たちがその良さを共感してくれなかったら辞めよう。
そうして、15年前ブルーウォーターが出来上がった。

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名前の由来は、沼津の川の近くで店を構えたからではない。
身近にある自然で子供が覚えられる英単語にしたかったそう。
水辺で、ブルーにイルミネーションされた川のほとりに店を構えることになったのは素敵な偶然だ。

ブルーウォータは、家具や人そしてモノが出来るだけシンプルな内装から始まった。
15年経つ今では数多くの商品やおいしい料理、そして働くスタッフの皆さんで彩られている。

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その中でひときわ目立つ木がある。
夏の間は窓を開けている。
正直暑い。だが風はある。
夏らしい空気感と時折涼しく癒してくれる風を感じれる。
風は何かがなければ見えない。
葉っぱが揺れることで風は見えるようになる。
“何かを置くと見えるようになる。そういう発想が好きなんだ。
人もそうでしょう。自分だけで頑張るよりほかの人と協力したりすることでその人の功績が見えてきたり”

風、そして川、山の景色。
それはぼーっとすることを許してくれる。
本を読むでもなく、心地よいBGMとともに。

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ブルーウォーターでは12年前から毎月ライブを開催している。
心地よい生活に必要な条件。
それは“おいしいもの” “人” “モノ”
そして“いい音楽”。

その音楽を天野さんセレクトで全国から呼んでいる。
評判や下調べは必要ない“心地よさ”が約束された音楽だ。
東京でもなかなかチケットの取れないアーティストも来る。
天野さんの人脈や今までの経験、そしてなんといってもこの“場所”
に素敵なアーティストや作品が今月も集まる。

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5/9(金) ライブLaika came back open19時start20時¥3500
10(土) 映画:Canta!timor上映会 open19時 start20時¥2000
11(日) ライブ:オグルスノリヒデ open19時 start20時¥3500

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『かけがえのない時間に、「今度」や「また」や「そのうち」はないと思います。
新しい価値体系や新しい目線を手に入れることが、日々の充実感や充足感を作るんだと信じています。
少しだけ手を伸ばす、少しだけ踏み出す。
そんな行為の先に、未来を作るピースが待ってると思います。』
と天野さんは今回のライブに想いを持たれていた。

こんなにも恵まれた場所だから
こんなにも自分を大切にする時間があってもいいような気がした。
それはブルーウォーターという場所が教えてくれる。
“未知の未体験のものも取り入れようとする勇気を身に着けてもらいたい”
川を眺めながら、おいしい食事と音楽を聴きに行く日が
生活の一部になるともっと自分の生活に愛着を持てるかもしれない。

≪THE BULE WATER≫
沼津市魚町15
TEL:055-951-0001
http://www.the-bluewater.co.jp/


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phot by cyie kawakami

眼鏡と共に127年~ヤシロメガネ~

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メガネの販売を始めて127年、上土商店街に店を構えたのが明治20年という老舗ヤシロメガネ。
江戸時代は桶屋だったというから商店としてのその長い歴史に驚く。
現在、店を引き継いでいるのは4代目となる八代泉さん。
もともとは東京の百貨店に勤めていた八代さん、メガネのことは何もわからなかったそうだ。

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“東京から沼津に戻ってきたとき、父と兄がいろいろと教えてくれました。あとは眼鏡の学校に通いました。やっぱり専門的にやるのであれば学校に行ったほうがいいかなと思いまして”

専門学校で2年間学んだ八代さんは日本眼鏡技術者協会の最上級資格であるSSS級認定眼鏡士に全国3人目の合格者として登録される。
メガネの専門職として学んだ知識や経験がメガネに対する絶対的な自信に繋がる。
そんな自信がトレードマークともなっている髪型に表れる。
自らが前面に出て注目を浴びることにより、仕事に対して責任感が湧くそうだ。

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“この髪型にして10年経つんですけど、目立つでしょ?だから、いい加減な仕事はできないんです。あとはお客様が緊張しないようにというのもあるんです”

初めてヤシロメガネを訪れる方が緊張しないようにすることは正確な視力を測定するうえでも必要なことだと八代さんは言う。普段のリラックスした状態でないと最適なメガネを作ることは難しいとのことだ。
全ては良いメガネを作るために。ヤシロメガネにはそんな想いが詰まっている。

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常用メガネの寿命は5~7年ともいわれる。
その都度、適切な視力測定、使用目的やライフスタイルにあったレンズ選定、フレーム選び、フィッティング調整など専門的で複雑な技術が必要となる。
だからこそ、メガネ作りは確かな技術を持つ信頼できるプロに任せたい。

“お客様とは長い付き合いになります。自分が生まれる前から通っていただいている方もいます。メガネとは、その方にとって人生の一部なんです”

メガネのことなら任せてください、笑顔でそう語る八代さんのプロとしての責任感、メガネに対する情熱を感じずにはいられない。

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≪ヤシロメガネ≫
沼津市上土町44
TEL:055-962-0896
http://846.co.jp/index.htm

竹と共に暮らす~浅宮商店~

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“私は3代目なんですけど、まだ140年位しか経ってないです(笑)”

笑顔でそう語ってくれたのは沼津竹材センター浅宮商店の浅宮義和さん。
竹の専門店としてその歴史は古い。
当時は人の暮らしも現在とは異なり、竹は生活の中で多く用いられていた。
海からの風が強い沼津、その潮風から家や農作物など人々の生活を守った沼津垣もそのひとつといえる。
我入道や千本など海辺の町には多くの沼津垣があり、それを作る職人も多く住んでいた。
そんな職人に材料となる竹を卸していたのが浅宮さんだ。

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“沼津垣には箱根の篠竹を使うんです。竹は潮に強く加工もしやすいため、海辺の町の垣根としては都合がいいんです”

実用的にも景観的にも優れている沼津垣、その技術を持つ職人さんも少なくなった。
竹自体の需要も減った。一昔前はザルやホウキなど日常のなかに竹でできたものが多く存在した。
竹はもっと身近なものだったのだ。幼少期から家の仕事を手伝ってきた浅宮さんにとって竹は人生そのものであった。それを表すかのように浅宮商店には3階建てからなる竹のショールームがある。
ショールームの中には多種多様な竹製品、竹細工、美術品が所狭しと並ぶ。
ひとつひとつ嬉しそうに説明を加える浅宮さん、竹について話すことが本当に楽しいそうだ。

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“日本というか東洋の文化にとって竹はかけがえの無いものなんです”

文化を守るという強い気持ちが店を守り続ける姿勢となる。
より多くの人に竹に親しんで欲しい、そんな想いがショールームには詰まっている。
また、伝統的な沼津垣の技術を絶やさないよう、現在は4代目となる浅宮浩典さんが技術を継承している。
家族で守る文化や技術、そこからは沼津という土地の風土と共に生きた人々の暮らしが見えてくる。
竹に囲まれた店内で浅宮さんは振り返る。

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“竹屋の息子として当然店を継ぐように育てられましたからね。本当に竹に魅せられた人生です”

竹だけが並ぶショールームには浅宮さんの人生と情熱が詰まっている。

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≪沼津竹材センター浅宮商店≫
沼津市港湾蛇松町9
TEL:055-962-1878

ノスタルジック ワールド~ひねもすカフェ~

沼津駅から港の方へ歩いて行く。
スルガ銀行本店の裏路地を入ってくと蔵があり、
ひねもすカフェがある。

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店の前には野菜が干してあったり、
外壁にはイラスト。
ただならぬ雰囲気を醸し出している。

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懐かしい引き戸をを開けるとカウンター。

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そして大きな階段がある。

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オーナーの近藤さんにお話を伺った。
もともと出身は東京。
東京の出来ては潰れる店たち。
入れ替わりの激しいエキサイティングな街も好きだったけど
疲れも覚えていた。
そんな中、山中湖で冥想会に参加。
その経験がその後の近藤さんの運命を変える。

東京を出たいなと思うようになり
山中湖に行こうかと思った。
・・・が、寒さが苦手なのでどうしようかなと思っていた時、
昔、父親の出張などで旅行に来たことがあった沼津に仕事を見つけた。
そういう経緯で馴染みもある沼津に移住することに。

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馴染みはあったとはいえ、知り合いはいない。
本当は山中湖に住んでみたかったので
最初は沼津に対してはなんだか中途半端な地方都市だな~と思っていたそう。
だが、暮すにつれ、狩野川や牛臥が本当に綺麗なことに気付き今では好きな場所に変わった。

昔から、“はまる場所”つまり居心地のいい場所を探すのが癖だった近藤さん。
小学生のころは図書室とか屋上とか。
そのうち、レストランのあの角の席がいいとか、カフェとかを探すように。
そして“自分で作っちゃえばいいじゃん!”と思ったそう。

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移住して働いているとき、いつかカフェがやりたいと思ってる夢を
陶芸教室の内村先生に話したところ“今やればいいじゃん”と言われ本当に実行することに。

お金はないし、ノウハウもない。半ば強引に行き当たりばったりでスタート。
ただ、場所は目を付けていた。
毎日の通勤路でなんだか気になっていた場所。そう、この蔵だ。
元々お店だったそうで、2階は住居だったそう。
色々と改装の打合せをしていた時に、近藤さんの夢を応援する人がまわりに集まりはじめた。

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自分たちで改装することにした。
みんなで作りながら、塗りながら、ライブ感あふれる改装。
それは店舗のところどころに表れている。
天井をはがすと立派な梁がでてきて、そのまま活かそう。とか
ちょっとアンティークっぽくするために加工してみたりなどなど。
こっちの方がかっこいいからとトイレは塗るのを途中でやめる。

蔵は自分の手で改装することによって
愛着のある、居心地の良い空間へと変わっていく。

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この“居心地の良い空間”がひねもすカフェのキーワードになっている。

ひねもすカフェの2階には畳とコタツがある。
おばあちゃんちに来たようなゆるく暖かい空気が流れている。
思わず足をのばして寝転んでしまいそう。

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個人的には真ん中にある壁を向いた席も好きだ。
現実からちょっと違う場所に来たように自分だけの世界に入ることができる。

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種類豊富なごはんメニューや
カフェメニュー。

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ちょっとレトロな食器だったり
細部まで近藤さんの作り出す“居心地”が。

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このお店に惹かれたスタッフさんもひねもすワールドの一部分としてここならではの世界観をつくる。

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この空間や集まる人のつくる絶妙な感覚にまた心地よさが増す。

そして、展示やライブ、販売も行っている。
ひねもすカフェのイラストを手掛けた杉イラストレーション工房のコルクさんも人気だ。

展示やライブは持ち込みだそう。
この“居心地”がパフォーマーを集めているのだろう。

ちょっとした隠れ家に
自分の居場所を探しにいってはどうだろうか。

≪ひねもすカフェ≫
沼津市魚町20番地
TLE:055-951-7812
http://www.geocities.jp/hinemoscafe/


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ジャズと骨董品と~古美術 光工房~

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新仲見世のアーケードを通っているとジャズが聞こえてくる。
ジャズの音色を追うと不思議な看板。
そこには古美術 光工房がある。

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開けた間口は骨董屋という敷居の高さを忘れさせてくれる。
むろん、ここのお店は“そういう”敷居の高さはない。

ここにあるのは亭主荒木さんの“好き”なモノだけだ。

もともと機械の設計の仕事をしていた荒木さん。
プライベートでは骨董品をコレクションするのが趣味だった。
そのうちどんどんコレクションは増えていき
“これどうするの?”“誰が片づけるの?”なんて家族からクレームが聞かれるように。
そんなちょっと悲しいきっかけで、売ってみるか!と思い立った。
それならば大好きなジャズをかけ、大好きなコレクションを販売する店舗にしようと決めた。

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“ジャズと骨董品が共存しているのは私にとってはなにも違和感がないんです”

その後めぐりあわせで、知人に今の場所を紹介してもらい3年前店舗を構えることに。

以前は清水市に住んでいたのだがその家を売って、修善寺の山の中へ移住した。
そして商いの場は沼津の街。
このギャップのバランスが良いとのこと。

だから、ここには荒木さんのライフスタイルが詰まったお店なのだ。

ジャズに包まれた骨董品。
今もコレクションをするように、ほぼ毎週定休日には自分の好きなものを集めてきている。
好きなものをコレクションし、売る。
家族からのクレームもクリアし好きなものに囲まれる。
なんともうらやましい限りだ。

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数十万もする品もあるが手ごろな価格のものも多くある。
全体的に古民具が多い。

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お客さんは年齢を問わず“古くて良いもの”を求める。
実際客層も50~80代が多いそうだが20代も来るそう。

“出会いによって広がりが深まったりするのが楽しい”

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骨董やジャズを通じていろいろな人が来る。
そこで話をしたり、素敵なものに出会ったり。

沢山の大好きなものが詰まった小さな空間は
過去と未来をつなぐ未知の世界が広がっている。

≪古美術 光工房≫
沼津市大手町4-5-14 沼津新仲見世通り


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老舗を復活させた5代目の想い~Grandma~

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創業は明治34年、沼津御用邸にお菓子を納めていた名店として長く愛されていた旭園本店。
沼津市内で初めてカステラを販売した店ともいわれているが、今から15年前その長い歴史に幕を降ろし閉店した。その旭園本店が名前をグランマと変え、復活したのは昨年の10月。
開店時には復活を待ち望んだ多くのお客さんの長い行列が上土商店街にできた。

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“この場所ってケーキ屋としては致命的な立地条件で、駐車場もないし駅からも少し離れてるし、全然人が来てくれなかったらどうしようとか不安もありました”

そう語るのは旭園本店から数えて5代目となる店主の中川英俊さん。
子供の頃はパティシエになるのが嫌で寿司屋になりたかったそうだ。
それは年中無休で忙しく働く両親を見て育ったからだという。
幼かった中川さんの面倒を見てくれたのはお祖母さん、そんなお祖母さんへの想いもあってグランマという名前を付けたとのことだ。
神奈川や県内の洋菓子店で12~13年間の修業を積んだ中川さん。

“修行中は何度も逃げようと思っていました(笑)でも、両親が元気なうちに店を再開したかった。その想いだけです。それがなかったらとっくに辞めていました”

両親や祖母に対する想いがグランマを作り上げている。
それは自分を育ててくれた家族、そして沼津に対する感謝の気持ちである。

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“父親の代からひものサブレなどを作っていたんですが、目指すは沼津を発信できる和洋菓子屋なんです。沼津で生まれ育ったわけですから、沼津のものを県外に発信できるお店にしていきたいですね”

沼津の名物である干物の形をしたひものサブレは先代から親しまれていたもの。
また、地元のものを使いたいとグランマで使用するすべての塩を戸田の特産である戸田塩に変えた。
先日、戸田塩の会の会長の菰田さんがグランマを訪れた。

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菰田さんのお母さまは、旭園本店の常連客だった。
当時戸田村から沼津の街中に出た時は必ず旭園本店に寄りお土産を持って帰った。
そのお土産は菰田さんにとって、とても特別なものだったようだ。
そんな素敵な思い出を与えてくれた旭園本店が閉まった時はとても寂しかったそうだ。
時代は経てグランマとして復活し、その材料に自分たちが作った塩が使われる事になった。
“夢のようだ”と菰田さんは呟かれた。

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旭園本店の伝統を守りつつも地元の素材を使い新たな試みを模索する。
それは代々受け継がれていく店を守るという強い想い。そして、この地域への感謝の想いの現れだ。

お菓子というモノは、不思議な食べ物だ。
プレゼントされたお菓子のまわりには笑顔が溢れる。
グランマに買いに来る人は渡す人の事を考えているのか、ワクワクした表情をしている。
そして昔の楽しかった何気ない家族のイベントを思い出す方も多いようだ。

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代が変わっても旭園本店からのスピリッツも引き継がれ、
このお菓子は地域の人々を心豊かにさせてくれる。

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≪Grandma≫
沼津市上土町63
TEL:055-962-2588