美味しいお茶やコーヒーを味わう時間は日々の生活を豊かにさせてくれる。
“極上の1杯”をつくる生産や工程を知り、そしてそれをつくりだす想いを知るともっと深く味わいを愉しめるのではないかと思いこのトークショーが開催された。
なんと今回は富山県からコーヒー豆の国際審査員を務めるセントベリーコーヒーの富川義之さんと、煎茶で農林水産大臣賞を受賞した沼津 山二園の後藤義博さんとの対談。
30人以上の方が聞きに来てくれた。中にはお茶のインストラクターを務める方も。
お二人の背景から伺う。
後藤義博さんは東京農大を卒業後、すぐに地元に戻って実家の農業を継ぐ。
農家がだんだん少なくなり、3Kと言われ出したのもあり、小さいころから作業服姿の両親の姿をかっこよく思えず農業が嫌だった。
どうせならと東京へ進学したが卒業するとき満員電車が嫌いでそのまま東京に就職も嫌だなと思ったのがきっかけで考え直した。
その時、農業者は農地を持っていくことが武器だと気付く。
農地がうちにあるということは農地を活かさなければならない。
“かっこいい農業ってなんだろう”と考えるようになった。
そして今の“生産から加工、販売までやろう”ということになった。
“東京に住んでいた時に、すぐ近くにマンションの中に牛を飼っているいる人がいたんですよ。でもちゃんと掃除してあって綺麗で。
平日小学生とか幼稚園生が写生大会なんかもしていて地域の中に認知されている。でも、私も農業を勉強していましたからそれだけじゃ成り立たないことがわかる。
ふと、向こう側をみるとレストランをやっていたんですよ。やり方次第では光が見えたんです“
ではなんでお茶をやろうと思ったのか?
“野菜は八百屋になっていろいろな野菜を仕入れないといけない。お茶屋はお茶だけでできる、お茶は保存がきく、ロスも少ない。
それに製品にはしていなかったもののお茶畑はあったから、自分の置かれた環境の中でできるそうすれば工場、お店が持てる、うまくいけばかっこいい職業になる。
それに工場を持てば嫁も来るかもしれないって不純な気持ちで始めたんですよ“
こうして後藤さんはかっこよく、そして最高のお茶をつくる農家へとなっていく。
一方、富川さんも実家が焙煎屋だったので幼い子頃からコーヒーには触れ合っていた。
実家で働くようになって、マニアックなコーヒーの集まりがあった。ブラジルに行った日本人の方のコーヒーを飲んで飲んだことのないおいしいコーヒーがあることを知った
“本当においしいコーヒーって何かな?”と考えるようになり、
自分らしいコーヒーを求めるためにセントベリーコーヒーという店舗を作ることに。
国際審査員はアメリカから要請が来るそうでたまたま、日本スペシャルティコーヒー認定
テストがあり上位で合格し、推薦され審査員になった。
お二人とも、実家の業種に携わりながら、今までとは違う“新しいもの”をつくろうとしていた。
そこに必要となってくるお二人が共通するキーワードがある。
それは“品評会”だ。
品評される側とする側という立場のお二人。
そこには強い気持ちがある。
後藤さんがお茶を始めた頃、沼津はお茶の産地ではない、質が悪いと言われていた。
“だから日本一のお茶を作ろう、それがきっかけ。
でも農業ってのは職人気質、プライドがあると自分で自分のがおいしいということも多くて。でも決めるのはお客さん。お客さんにだって好みがある。
だから信頼性がある好評性がある品評会に出すことにしました。
運も良かったのか、出した一回目に農林水産大臣賞をいただきました。
お茶の修行してないからわからないことが多く、データを集めました。そういう研究所があったんだけど当時はデータの基づく栽培を誰も信じていなくて。
マニュアル通りに作ると全国で一等賞を受賞しました“
そして昭和58年、献上茶として認定された。
品評会はマニアック。
商売にはつながらない。
でもこの評価はお客様にとっても安心感があるという。
お客様から言われたひとこにショックを受けた。
“去年のお茶のほうがおいしかったね”
そういったことから不安になる。それを払拭するためにも、
おいしいお茶をいつでも提供できるように。
分析したり、研究したり、安心感を得るためにも品評会に出すことにしたそう。
一方富川さんも、
国際審査員になることで、どんな人がどうやって買い付けるのかを知った。
ただ海外にいって審査をするだけでなく日本のコーヒーに対する意識も変わっていく。
そこに一つ、国際審査をするようになって気づいたことは海外の人たちがたくさん買い付けに来ているということ。
“日本人って譲り合いの精神。
いいことだけど世界に行くとそういう感覚ではない。
一歩先に行く、というよりは、まず口に出す。”
“国際審査員の集合写真でど真ん中に座ろうと思ったんです。
だからど真ん中に座っても文句を言われない審査委員になろうと思って”
審査員になることで、おいしいコーヒー豆に出会え、
日本で最高の一杯を出すことを可能とし、どうどうと世界でも発言をする。
記念写真も今ではど真ん中で写るようになったそう。
またこのトークショーのもう一つの目玉。
お二人にはお茶とコーヒーの淹れ方レクチャーをしていただいた。
お茶はなんと今年農林水産大臣賞を受賞した雲乃関というお茶だ。
まるでお出汁のようにうまみを感じるお茶だ。
客席からも、“甘い”“かぐわしい”そして“言葉にならないおいしさ”など感動の声が聞こえた。
いつもはコーヒを審査する富川さんからもこのお茶の感想を聞いた
“うまみは日本独特のもの。コーヒーの品評会でも最近はうまみという言葉を知った海外の方たちは使うようになったんですよ。
これは日本文化やお茶から来たものかもしれないですね。
このお茶は、質感を感じます。お茶の味が立体的に感じて、口に含んだ時に粘性を感じました“
との感想をいただいた。
コーヒーは飲み比べということで風味が違うと感じられる2種類をいただいた。
同じコーヒーでも土壌、農園の風土によって味が変わるそう。
今でこそ“スペシャルティコーヒー”という言葉を聞くようになったが、以前は日本ではコーヒーに対してあまり大事に扱われなかったそう。
今回はちょっとコーヒーぽくない後味がレモンティーのような酸味があるエチオピアと酸味がすくなく特殊なフレーバーのインドネシアのマンデリン。
後藤さんはコーヒーは敵だと思ってた時期があるそう。
たまたま同窓会でcafe花野子の齋藤清一さんに再開したのがきっかけで
おいしいコーヒーを知る。そこには選別や火入れ、(コーヒーでいうなら焙煎)、温度管理など共通することがあることがわかり、
それを真摯に行う姿を見て、お互いに刺激を受けたようだ。
ある酒造メーカーの会長さんに言われた言葉の理解にも繋がった。
“おきている時間はどのくらいで、その限られた時間の中で飲み物を飲む時間はどのくらいか?
ほかの飲み物は敵ではなく、その時間にどれだけ「飲み物」を満足してもらえるか。”
最後にお互い、飲み物に欠かせない水について意見交換を。
他の飲み物の方法を聞くことで、さらにおいしい一杯に繋がったように思えた。
今回は最高の一杯というこうとで
お水は髙嶋酒造の“wasan”が用意された
お茶とコーヒー。
飲み物としての共通点だけではなく、“おいしい1杯”を提供したいという気持ちはかわらないこと。
そして、最高のお茶やコーヒーを提供することから学んできたことを教えていただいた。
“もっとあるのではないか”
手間暇を惜しんで効率化し、水分を補給するというだけになるのではなく、最高の一杯を大切にすることで“嗜好品”として飲み物があり、その先に文化ができることを知る。
後藤さんも“お茶には煎茶道があります。お茶に出会わなければ、きれいな庭や掛け軸を楽しむことをしらなかった、よい経験をしています”とのこと。
富川さんも、この海外での経験を次の日は中学校でお話ししたそう。
お二人の話の中で、“おいしい飲み物”を“評価”それをさらに発展させ、そこで終わらずに広がっていく力強さを感じた。
≪山二園≫
沼津市中沢田349-1
TEL: 055-922-2700
沼津ジャーナル記事はこちら→ぶれないお茶~山二園 日本一の受賞茶を楽しむ会~
≪セントベリーコーヒー≫
[富山清水元町店] 富山市清水元町1-18
TEL:076-420-7155
http://stberry.com/