漁師町が生んだ文学者を知る場所~沼津市芹沢光治良記念館~

numazu-journal2

沼津市芹沢光治良記念館は昭和45年、スルガ銀行の会長だった岡野喜一郎氏が財団を設立、芹沢文学館として建設された。平成21年4月に沼津市に寄贈、同年10月に開館した。

芹沢光治良は明治29年、我入道に生まれた。
旧制沼津中学校、第一高等学校を経て、東京帝国大学経済学部に入学。
卒業後、農商務省に入ったが、官を辞してパリ大学に入学した。
パリ大学卒業間際に結核で倒れ、スイスやフランスの高原療養所で病を癒し本格的に筆を執り始める。

代表作である『人間の運命』は幼少期から青年期の沼津を舞台とした一大長編小説として有名。
その後、日本の文学の普及のため川端康成の跡を継ぐかたちで日本ペンクラブ会長を務める。

名称未設定 1

そんな芹沢文学の形成において、生まれ育った我入道の影響は大きい。

“漁師町に生まれていますから本来は漁師になるはずだったんです”
説明していただいたのは記念館の館長、仁王一成さん。

numazu-journal

記念館が沼津市に寄贈され、半年をかけて掃除し、床を張り替え、外壁を修繕してオープンの状態に持っていった。

“その頃、資料は少なかったんです。あったとしてもボロボロですから。2階に展示するものもなかったから文化財センターから出土品の石器を借りて並べたり(笑)”

一番問題になったのは冷暖房といった空調設備が全くなかったこと。
夏は暑く冬は寒いという最悪の環境。
空調がないせいで、他の文学館から資料を借りるということも出来ずにいた。
それでも、来館者は年々増え、いまでは4000名を超えるようになった。
財団が運営していた当時の来館者が800名だったことに比べれば飛躍的な増え方である。
その後、念願の空調設備が入り、ようやく記念館としての環境が整った。

numazu-journal3

“来館者を増やすというのは至上命題です”

仁王さんがそう言い切るのには理由がある。
実は過去に記念館は廃館、資料は図書館へ移動という話があがったそうだ。
その時、日頃は疎遠な地元の住民、我入道の住民が反対のために立ち上がろうとしたことが仁王さんは嬉しかったそうだ。

“本当に嬉しかったですよ。地域のための記念館でもあるんだなと思いました”

建築家、菊竹清訓氏の設計による鉄筋コンクリート造2階建の建物を見学に来る建築ファンや学生も多い。

numazu-journal4

また、記念館の屋上から見る景色、特に駿河湾に沈む夕日は仁王さんのおすすめでもある。
この景色を楽しんでもらおうと屋上は常に解放されている。

numazu-journal5

地元住民の誇りとしての記念館。全国の芹沢光治良ファンが集まれる場所としての記念館。
2階建のこの小さな記念館は建物以上の大きな意味を持っている。

≪沼津市芹沢光治良記念館≫
沼津市我入道まんだが原517-1
TEL:055-932-0255
http://www.city.numazu.shizuoka.jp/kurashi/shisetsu/serizawa/

【HPに戻る】

ノスタルジック ワールド~ひねもすカフェ~

沼津駅から港の方へ歩いて行く。
スルガ銀行本店の裏路地を入ってくと蔵があり、
ひねもすカフェがある。

ひねもす20

店の前には野菜が干してあったり、
外壁にはイラスト。
ただならぬ雰囲気を醸し出している。

ひねもす17

懐かしい引き戸をを開けるとカウンター。

IMG_7170

そして大きな階段がある。

hinemosu1

オーナーの近藤さんにお話を伺った。
もともと出身は東京。
東京の出来ては潰れる店たち。
入れ替わりの激しいエキサイティングな街も好きだったけど
疲れも覚えていた。
そんな中、山中湖で冥想会に参加。
その経験がその後の近藤さんの運命を変える。

東京を出たいなと思うようになり
山中湖に行こうかと思った。
・・・が、寒さが苦手なのでどうしようかなと思っていた時、
昔、父親の出張などで旅行に来たことがあった沼津に仕事を見つけた。
そういう経緯で馴染みもある沼津に移住することに。

IMG_7162

馴染みはあったとはいえ、知り合いはいない。
本当は山中湖に住んでみたかったので
最初は沼津に対してはなんだか中途半端な地方都市だな~と思っていたそう。
だが、暮すにつれ、狩野川や牛臥が本当に綺麗なことに気付き今では好きな場所に変わった。

昔から、“はまる場所”つまり居心地のいい場所を探すのが癖だった近藤さん。
小学生のころは図書室とか屋上とか。
そのうち、レストランのあの角の席がいいとか、カフェとかを探すように。
そして“自分で作っちゃえばいいじゃん!”と思ったそう。

IMG_7150

移住して働いているとき、いつかカフェがやりたいと思ってる夢を
陶芸教室の内村先生に話したところ“今やればいいじゃん”と言われ本当に実行することに。

お金はないし、ノウハウもない。半ば強引に行き当たりばったりでスタート。
ただ、場所は目を付けていた。
毎日の通勤路でなんだか気になっていた場所。そう、この蔵だ。
元々お店だったそうで、2階は住居だったそう。
色々と改装の打合せをしていた時に、近藤さんの夢を応援する人がまわりに集まりはじめた。

IMG_7137

自分たちで改装することにした。
みんなで作りながら、塗りながら、ライブ感あふれる改装。
それは店舗のところどころに表れている。
天井をはがすと立派な梁がでてきて、そのまま活かそう。とか
ちょっとアンティークっぽくするために加工してみたりなどなど。
こっちの方がかっこいいからとトイレは塗るのを途中でやめる。

蔵は自分の手で改装することによって
愛着のある、居心地の良い空間へと変わっていく。

IMG_7149

この“居心地の良い空間”がひねもすカフェのキーワードになっている。

ひねもすカフェの2階には畳とコタツがある。
おばあちゃんちに来たようなゆるく暖かい空気が流れている。
思わず足をのばして寝転んでしまいそう。

hinemosu3

個人的には真ん中にある壁を向いた席も好きだ。
現実からちょっと違う場所に来たように自分だけの世界に入ることができる。

hinemosu6

種類豊富なごはんメニューや
カフェメニュー。

hinemosu4

ちょっとレトロな食器だったり
細部まで近藤さんの作り出す“居心地”が。

IMG_7157

このお店に惹かれたスタッフさんもひねもすワールドの一部分としてここならではの世界観をつくる。

IMG_7132

この空間や集まる人のつくる絶妙な感覚にまた心地よさが増す。

そして、展示やライブ、販売も行っている。
ひねもすカフェのイラストを手掛けた杉イラストレーション工房のコルクさんも人気だ。

展示やライブは持ち込みだそう。
この“居心地”がパフォーマーを集めているのだろう。

ちょっとした隠れ家に
自分の居場所を探しにいってはどうだろうか。

≪ひねもすカフェ≫
沼津市魚町20番地
TLE:055-951-7812
http://www.geocities.jp/hinemoscafe/


大きな地図で見る

駅から1分、徹底した“ここち良さ”~ココチホテル沼津~

2011年11月11日11時11分。
沼津の北口に話題を持って現れた“ココチホテル沼津”

老舗ビジネスホテルのホテルニューオオタケが区画整理のため移転した際に新しく生まれ変わった。

IMG_7094

ビジネスホテルとシティーホテルの中間のようなホテル。

なんといってもセキュリティーが素晴らしい。
12時以降はホテルの宿泊者以外は中に入ることができない(カードキーが入口にある)
また、自分の宿泊フロア以外はいけないようになっているのだ。
女性の一人旅や大学受験や高校受験で一人で未成年だけでの宿泊でも安心だ。

kokoti4
※10階のコーナーツインの部屋から東方面を見た景色。奥には箱根の山、手前には沼津駅を一望できる。

さらにココチホテル最大の売りであるリラックスルーム(ダブル、ツイン)がある。
和モダンを意識した部屋には
グレーの畳。そして低めのベッド。
靴を脱いでくつろげる。
とある部屋はトイレにお花まで。

kokoti2

まるで家が移動したような落着き感は旅の疲れを本当にいやしてくれる。
なかなか外では寝れないという人も眠ってしまいそう。

ビジネスマンもいい仕事ができそうなこの部屋。

部屋に戻ったら、ぱーっと靴を脱ぎすて
自宅のようにくつろぎ
駅まで1分という立地を活かし、
そのまま東京へ出勤というのもありだろう。
これは心も体もリフレッシュできるからこそ。
富士山を見てから出社するものたまにはいいもんだ。

2年目のココチホテル、細部まで気を配り
オシャレかつリラックスできる空間に仕上がっている。
部屋も良い香り。一部屋一部屋にこのような身だしなみセットがあるさりげない心配りもたまらない。

kokoti3

スタッフは接客が本当に好きなんだそう。
アメニティーもひとつひとつスタッフが2年の間に必要なものを選び
バラバラにならないように男性用女性用にパッケージしている。
またフロント対応も性別年齢問わずどのスタッフもとても笑顔で親切だ。

kokoti01

メモ用紙一つをとっても畳の和モダン。
38年続くビジネスホテルからさらに進化したホテルに。
徹底した“ここち良さ”を提案した社長の想いが詰まっている。

実はもう一つ、心地よさにさらにプラスαの楽しみがある。
全国からデザインを募集しコンペが行われ
受賞したアイディアがデザインルームになった。

kokoti5
 ●最優秀賞になった7歳の女の子がデザインしたという「夕やけ空」

kokoti6
 ●本が壁一面におかれている「トラベルライブラリー」
旅の本、生活の本、小説などがおかれている。
トラベルとついているがいわゆるガイドブックはおかれていない。
より豊かな生活への旅路を示唆してくれるような本が多いと感じた。

どの部屋も布団の収納場所など細かいところまでデザインの邪魔にならないように計算。
宿泊という泊まる意外のデザインと泊まることをうまく融合させてある。
ビジネスホテルにきて、こんな珍しい空間に宿泊することはまるで遊園地に泊まるような高揚感がある。
本当に”夢がみれる”部屋になってる。
この試みも珍しいことだ。ちなみに泊まるときにはちゃんと部屋のデザインを確認して欲しい。

リラックスとデザイン、そして遊び心。
社長の想いにさらにスタッフの力が加わって
“ホテル”よりも“家”に近く、でも“非日常”というここでしか味わえない空間になっている。

kokoti07

≪ココチホテル≫
沼津市高島町1−12
TEL:055-924-1100
http://cocochee.jp/

1名様利用リラックスツイン(畳敷き):7,800円(休日)
2名様利用和モダンなツイン(畳敷き):10,800円(休日・一人当たり)


大きな地図で見る

ジャズと骨董品と~古美術 光工房~

ひかり09

新仲見世のアーケードを通っているとジャズが聞こえてくる。
ジャズの音色を追うと不思議な看板。
そこには古美術 光工房がある。

ひかり06

開けた間口は骨董屋という敷居の高さを忘れさせてくれる。
むろん、ここのお店は“そういう”敷居の高さはない。

ここにあるのは亭主荒木さんの“好き”なモノだけだ。

もともと機械の設計の仕事をしていた荒木さん。
プライベートでは骨董品をコレクションするのが趣味だった。
そのうちどんどんコレクションは増えていき
“これどうするの?”“誰が片づけるの?”なんて家族からクレームが聞かれるように。
そんなちょっと悲しいきっかけで、売ってみるか!と思い立った。
それならば大好きなジャズをかけ、大好きなコレクションを販売する店舗にしようと決めた。

ひかり01

“ジャズと骨董品が共存しているのは私にとってはなにも違和感がないんです”

その後めぐりあわせで、知人に今の場所を紹介してもらい3年前店舗を構えることに。

以前は清水市に住んでいたのだがその家を売って、修善寺の山の中へ移住した。
そして商いの場は沼津の街。
このギャップのバランスが良いとのこと。

だから、ここには荒木さんのライフスタイルが詰まったお店なのだ。

ジャズに包まれた骨董品。
今もコレクションをするように、ほぼ毎週定休日には自分の好きなものを集めてきている。
好きなものをコレクションし、売る。
家族からのクレームもクリアし好きなものに囲まれる。
なんともうらやましい限りだ。

ひかり02

数十万もする品もあるが手ごろな価格のものも多くある。
全体的に古民具が多い。

ひかり07

ひかり03

お客さんは年齢を問わず“古くて良いもの”を求める。
実際客層も50~80代が多いそうだが20代も来るそう。

“出会いによって広がりが深まったりするのが楽しい”

ひかり08

骨董やジャズを通じていろいろな人が来る。
そこで話をしたり、素敵なものに出会ったり。

沢山の大好きなものが詰まった小さな空間は
過去と未来をつなぐ未知の世界が広がっている。

≪古美術 光工房≫
沼津市大手町4-5-14 沼津新仲見世通り


大きな地図で見る 

ツーリングの拠点~レンタルバイク沼津駅前店~

numazu-journal

整然と並んだバイクの数々、そのなかから自分の好みで選んでレンタルする。
選べるのはハーレーやNINJA1000、CB400などバイク好きにはたまらないラインナップだ。
仲見世商店街のレンタルバイク沼津駅前店。
レンタルは4時間から。
ここでは50ccスクーターから1000ccオーバーの外車まで豊富な在庫の中から目的に合ったモデルを選ぶことができる。
4時間2880円~20,880円と車種によって値段が変わる。
ヘルメットやグローブといったバイク用品も揃えているので、手ぶらで借りることも可能だ。

“ここでレンタルして伊豆半島一周したり富士山を一周したりと楽しみ方は人それぞれ、沼津はどこへ行くにもちょうどいい場所なんですよ”

そう語るのは店長の宮本宏治さん。

numazu-journal3

初心者から数十年ぶりにバイクに乗るといった人までお客さんも様々だ。
そのなかでも多いのは40~50歳のお客さん。
若いころに乗っていたが結婚や引っ越しなどの理由で今はバイクから遠ざかっている、そんな方が多いそうだ。バイクに乗るとみんな笑顔になって戻ってくる、嬉しそうに宮本さんは言う。

“帰ってくるとどこへ行ってきたとか報告してくれるんですよ。皆さん、本当に楽しんでくれて。そんな笑顔を見るとこちらまで元気になりますね”

もともとバイクが大好きな宮本さん、お客さんとも自然に会話が弾むという。
レンタルから戻ってきたバイクを洗車するのも宮本さんの仕事。
いつでも綺麗なバイクを貸し出せるよう、丁寧に洗車する。
洗車が趣味じゃないとこの仕事はできないと宮本さん。

numazu-journal4

“バイクは目的なくただ走っているだけでも楽しい。風を直接感じることができて、自然を大切にしようと思えてくる。解放感というのは車とは全然違いますね”

車とは違う景色、いつもとは違う視点で伊豆や周辺の自然を楽しむ。
スピードを出すわけでもなく、ゆっくりと安全運転で。
レンタルバイクという新しいスタイルで沼津を基点に旅をする。
天気のいい休日、新しいことに挑戦してみてはいかがだろうか?

≪レンタルバイク沼津駅前店≫
沼津市大手町5-4-21
TEL:055-963-8558
営業時間:10:00~19:00
定休日:毎週水曜日
    毎月 第2 第4 火曜日
http://www.rental819.com/area/shopinfo.php?tenpoid=05601&area=6

海の見える畑(獅子浜)

獅子浜08

沼津アルプスの麓に海の見える畑があると聞き、現地へ向かってみた。

沼津駅南口から414号線を南へ車で15分ほど走る。
右手に海が見えたあたりからわりとすぐに静浦漁協。
そのすぐ先あたりに本能寺の入口がある。

獅子浜02

本能寺の脇を抜け、現在は廃校の静浦小学校を目指して上り坂をいくと
右手の少し開けた場所の吾妻神社が現れる。

獅子浜03

獅子浜

吾妻神社はもう少し上部にあったのだが、最近この場所へ移築されてきた。
コンクリートで整備され、緊急避難場所として自治体が管理している。

車を降りるとこの景色
どどーん。

獅子浜05

なんとも気持ちの良い眺め。

そこから右手のこのエリアが今回の案件。

獅子浜06

すこしわかりづらいが、手前からカーブした細長の土地、奥は台形。
ひしゃく形の変形土地。
一年ほど前まで家庭菜園を楽しんでいて
ハーブが自生していたり、アロエ、びわ、夏みかんなども植えてあった。

海の見える方角が南側のため日当たり良好。
画面右手の小高い丘に登ってみると
こんな感じ。

獅子浜07

友人や家族でこの景色を見ながら週末農園。
春にはお花見、仲間たちとこの場所をシェアするのもよし。
キャンピングカーでバカンスなんていうのも一興。

【物件情報】
住所 : 沼津市獅子浜
土地面積 : 370㎡(地目:畑)
賃料 : 月1万円
敷金:礼金: なし
賃貸契約 : 1ヶ月から可能

問い合わせ* 090-5626-1527 (小松正人)

 

美術館でもない、文学館でもない“ことば館”とは~大岡信ことば館~

三島駅北口を出て右手に進むとZ会の大きなオフィスビルがあり、この1,2階に“大岡信ことば館”がある。
ここは“ことば”に包まれ、“ことば”を感じられる場所だ。

ookamakoto5

大岡信(おおかまこと)は三島市生まれの詩人・批評家だ。
明治大学、東京芸術大学の教授、そして日本ペンクラブの会長も務め、日本語が持つ可能性を追求し日本文化に大きな影響を与えている。

大岡信と通信教育事業を展開し長泉町に本社のあるZ会はもともと親交があり、三島に建てられるビルにことばの魅力を伝える場を作る事に。
そうして2009年、三島でこの「大岡信ことば館」が開館する事となった。

開館当初、来場者は朝日新聞で29年の間に6762回連載をしていた「折々のうた」を通じて大岡信に馴染みある年代の方が多かったそうだ。
4年が経ち今では大岡信を教科書で知る世代も増え、来場者の半数が若者となった。
たまたま来た大学生が「こういう所だと思わなかった!」と驚いていたそう。

「こういう所」とはどういう所か。
“美術館でもない、文学館でもない”という今までになかった“ハコ”なのだ。

この“ハコ”を知るキーワードとなるのが館長であり造形家の岩本圭司さんだ。
キーマン岩本館長にお話しを伺った。

ookamakoto3

“ことばというのは、文章のことばだけではありません。音楽、美術、身体表現にもつながります。
 そして、「伝えよう」という役割も。
ここは、ことばのもつ広い範疇を体験し、楽しむところです。
「日本語」を愛した大岡信とつながるコンセプトなのです”

大岡信ことば館は、ことばを体感できる場所なのだ。

入るとまず、大岡信の著書が展示され、これまでの活動を知ることができるコーナーがある。

大岡信1

その奥には2階まで吹き抜けた空間の壁一面に大岡信の歌。
白い壁に白い文字が張り付いている。

ookamakoto1

光があることで“文字を読む”ことを体感する。
この広い空間にはもともと琵琶の演奏用に作られた椅子が置いてあり、
この椅子にも座ることもできる。

座って壁を見る。また違う見え方がする。

ここでは、過ごし方に制限がない。
フロアには座布団がおいてあり、寝っころがっても、座っても良い。
一人ひとりに与えられた空間は無限に可能性を広げる。

ぴかぴかに磨かれた床に座ってみると
また違う世界が見える。

大岡信6

“言葉”を意識してくると全然ちがう“ことば”に出会ってしまう。
それは紙の上に並ぶ文字ではなく“ことば”という生き物を感じた。

今開催されている「聞くことはさわること?展」
では音としてのことばを展示している。

大岡信4

高校生からNHKアナウンサーまで声で活躍する方々が朗読した詩が展示されている。
前代未聞の音の展示は期待を裏切らない仕様だ。
会場に設けられた5つの音響空間。
大岡信の詩とそれぞれの朗読がその場に立つ一人ひとりに向かって響く。

こうしてフロアを見て回ると最後に細い通路を通り
壁に張り付いて、壁に張り付いた詩を読む。
そして通り抜ける。

まるでおとぎ話の世界に行った後、日常に戻る路のように。
ただ、それは名残惜しいものではなく、
現実世界で出会う“ことば”によってワクワクするようなものなのだ。

このような“ハコ”ができるまで、展示方法を見出すまでに
2年を費やしたそうだ。
造形家の館長だからこその発想でコレクションを並べるだけではない今までにない空間が出来た。
毎回展示は館長が考え、そしてスタッフの皆さんで手作りで造り上げるそうだ。
コンセプトによって考え抜かれた空間、そしてひとつひとつの詩、その展示方法までしっかり味わってもらいたい。

ookamakoto2

また『大築勇吏仁―記憶と現在―展』も同時開催されている。
大岡信の影響を受けた画家だ。
ここでは大岡信に影響を受けた人が多くいる事を知り、文学だけではなく心を潤す芸術にも出会える。

次回の展示について館長からこのような言葉を頂いた。
“次の展示は来場された方もこの企画展の一部になります”と。
少し展示方法などは聞いたがあえて伏せておきたい。
なぜなら、私と同じ驚きをしてほしいのだ。

“ことば”をどう感じるかは自分次第。
ただ、実際にここに行って感じる事で
身近な“ことば”が明日から変わるかもしれない。

そして大岡信の作品の中には“水”という言葉も多く出てくる。
柿田川や源平川などの清流のある三島で育ち、狩野川や千本浜と水の豊富な沼津で青春時代を過ごし生まれたことば。
そんなこの土地によって生み出されたことばに出会い、その余韻に浸りながら三島、沼津の水を巡る旅もおすすめだ。

IMG_6628

大岡信
1931(昭和6)年、三島市生まれの詩人・批評家。歌人の父と明治から昭和にかけての歌人窪田空穂の影響を受け、沼津中学時代に作歌・詩作を行った。
その後、東京大学に進学。在学中に「現代文学」、卒業後「櫂」に参加し、「シュルレアリスム研究会」「鰐」を結成。
読売新聞外報部勤務を経て、明治大学・東京芸術大学の教授を務める。
詩と批評を中心とした多様な精神活動を行い、数々の賞も受賞している。

≪大岡信ことば館≫
三島市文教町1-9-11 Z会文教町ビル1・2階
TEL:055-976-9160
午後10時~午後5時(入館は午後4時半まで)
http://www.zkai.co.jp/kotobakan/


大きな地図で見る

【HPに戻る】

NUMAZU treasure hunting #7

numazu th08

1910′ register
at AKANOREN
N35°5’49.77″ E138°51’28.68″

老舗を復活させた5代目の想い~Grandma~

numazu-journal2

創業は明治34年、沼津御用邸にお菓子を納めていた名店として長く愛されていた旭園本店。
沼津市内で初めてカステラを販売した店ともいわれているが、今から15年前その長い歴史に幕を降ろし閉店した。その旭園本店が名前をグランマと変え、復活したのは昨年の10月。
開店時には復活を待ち望んだ多くのお客さんの長い行列が上土商店街にできた。

IMG_1617

“この場所ってケーキ屋としては致命的な立地条件で、駐車場もないし駅からも少し離れてるし、全然人が来てくれなかったらどうしようとか不安もありました”

そう語るのは旭園本店から数えて5代目となる店主の中川英俊さん。
子供の頃はパティシエになるのが嫌で寿司屋になりたかったそうだ。
それは年中無休で忙しく働く両親を見て育ったからだという。
幼かった中川さんの面倒を見てくれたのはお祖母さん、そんなお祖母さんへの想いもあってグランマという名前を付けたとのことだ。
神奈川や県内の洋菓子店で12~13年間の修業を積んだ中川さん。

“修行中は何度も逃げようと思っていました(笑)でも、両親が元気なうちに店を再開したかった。その想いだけです。それがなかったらとっくに辞めていました”

両親や祖母に対する想いがグランマを作り上げている。
それは自分を育ててくれた家族、そして沼津に対する感謝の気持ちである。

numazu-journal3

“父親の代からひものサブレなどを作っていたんですが、目指すは沼津を発信できる和洋菓子屋なんです。沼津で生まれ育ったわけですから、沼津のものを県外に発信できるお店にしていきたいですね”

沼津の名物である干物の形をしたひものサブレは先代から親しまれていたもの。
また、地元のものを使いたいとグランマで使用するすべての塩を戸田の特産である戸田塩に変えた。
先日、戸田塩の会の会長の菰田さんがグランマを訪れた。

numazu-journal6

菰田さんのお母さまは、旭園本店の常連客だった。
当時戸田村から沼津の街中に出た時は必ず旭園本店に寄りお土産を持って帰った。
そのお土産は菰田さんにとって、とても特別なものだったようだ。
そんな素敵な思い出を与えてくれた旭園本店が閉まった時はとても寂しかったそうだ。
時代は経てグランマとして復活し、その材料に自分たちが作った塩が使われる事になった。
“夢のようだ”と菰田さんは呟かれた。

numazu-journal5

旭園本店の伝統を守りつつも地元の素材を使い新たな試みを模索する。
それは代々受け継がれていく店を守るという強い想い。そして、この地域への感謝の想いの現れだ。

お菓子というモノは、不思議な食べ物だ。
プレゼントされたお菓子のまわりには笑顔が溢れる。
グランマに買いに来る人は渡す人の事を考えているのか、ワクワクした表情をしている。
そして昔の楽しかった何気ない家族のイベントを思い出す方も多いようだ。

numazu-journal7

代が変わっても旭園本店からのスピリッツも引き継がれ、
このお菓子は地域の人々を心豊かにさせてくれる。

numazu-journal

≪Grandma≫
沼津市上土町63
TEL:055-962-2588