沼津港に2020年11月3日にオープンした「沼津我入道漁業協同組合 まるが水産」
沼津我入道漁業協同組合と、首都圏を中心に「東京チカラめし」など約60店舗の飲食店を手掛ける三光マーケティングフーズが提携し、協同で進める水産事業プロジェクトだ。
「ご縁がつながり、もともとは海外事業での提携を模索していましたが、新型コロナウイルスの影響で海外への行き来が難しくなり、海外へ向いていた視線が日本の地域へとシフトしました。
地域を活性化するためには?漁師さんのためにできることは? と問いかけるようになり、そして一つの答えを出し沼津港での食堂オープンへと繋がっていきました。新型コロナウィルスは、我々とって多くの気付きや出会いを与えてくれました」
三光マーケティングフーズの長澤社長からこのプロジェクトの経緯を教えて頂いた。
沼津漁港の中で最古の歴史をもつ我入道漁業協同組合
我入道漁協といえば一本釣り漁が主力のひとつ。
特にタチウオは、夜に釣ったものがそのまま翌朝市場に届けられる。
夕べまで生きていた魚を刺し身で味わうことができるのだ。
その我入道漁協と三光マーケティングフーズがタッグを組んだ。
まるが水産の「まるが」の由来は、我入道の「我」に丸印。
競り落とした魚のケースに入れる競り札にはもちろん「まるが」のマークが使われている。
まるが水産では沼津魚市場で競り落とされた今朝獲れ鮮魚を味わうことができる。
店頭では鮮魚の販売もしているので、魚を選んで好きな調理法で好みの料理をオーダーすることができる。
魚屋にして食堂。魚が買える定食屋なのだ。
この店のために沼津に移り住んだ方がいる。
三光マーケティングフーズ 経営戦略本部 水産事業プロジェクトの担当部長、廣岡勉さん。
2020年9月から沼津に住んでいるという。
沼津に来る前は店舗の仕入れ部門の責任者をしていた。
廣岡さんの朝は早い。
4時前に起床、5時には店に向かい、沼津魚市場の競りに参加する。
まるが水産と三光マーケティングフーズが手掛ける飲食店用の魚を競り落とす。この日はタチウオ、キンメダイ、などを購入。
手早く出荷作業を行い、横須賀や高田馬場など首都圏へと自ら運ぶ。
片道約120km。
「近いですよ」と笑みを浮かべる廣岡さん。
競りを終え魚を乗せた車を走らせる。東京には9時ごろには到着できる。
「だからランチでの提供に間に合うんです」と。
自ら買付けを行うことで一般流通価格より安く、そして新鮮なものを届けることができる。
沼津の魚について聞いてみた。
「鮮度が良いと、こんなに違うのかと驚いた。魚を捌いても手が臭くならない。魚の概念が変わる。驚きしかない」
まるが水産では、魚の加工も行っている。
競り落としてすぐに捌かれるジューシーなアジの干物や、競りに参加しているからこそできる、他ではやっていない魚種での西京焼きなど、鮮度を保ったまま真空パックにして店頭販売する。
漁業の後継者不足、6次産業化、日本人の魚離れ・・・
その解決の糸口が我入道漁協の水産事業プロジェクトから見出だせるのかもしれない。
我入道漁協参事の青嶋浩さんは「漁協の会員は60〜70代がメインで高齢化や後継者不足などの課題がある。
取り組みを通じて漁師さんに奉仕し、漁師という生業がこの地域で協同して継続できるようにしていきたい」と話す。
今、我入道漁協は、直営の『市場めし食堂』や今回のプロジェクトなどを通じて魚食文化へのニーズを提案し自ら実証することにより、沼津でとれる魚の価値を高めようとしている。
廣岡さんに夢を伺ってみた。
「三光マーケティングフーズとして船を持ち、漁に出て漁業の活性化をしたい。沼津だけでなく他のエリアでの展開なども視野に、食文化の盛り上げ、新しい食べ方などの提案をしていけたら。
こうして事業をしているのはお取引先やお客様のおかげ。その恩返しとして、世の中の役にたてるよう動いていきたい。」
「コロナ禍、多くのことを気付かせて頂き、お世話になっている
我入道漁協さんには足を向けて寝られないです」と、優しい笑顔を見せた。
コロナにおける影響は、飲食店にも大きな打撃を与えているが、日々のあたりまえを考え直すきっかけになっている。
あたり前に営業ができること、あたり前に食材を仕入れること。
このあたり前は、それぞれの産業を支える人の力があってのこと。
大量消費時代に忘れかけてしまったこと。
改めて、昔からあった普遍的な価値観を思い出し、そして現在のテクノロジーを活かしながら、新しい時代に向けて変革をする地域、組合、企業のこれからの取り組みが楽しみだ。