御殿場の富士山のふもとにある小さな醤油工場。
それが天野醤油。
静岡県東部の学校給食にも採用されている天野醤油は
品質、味ともに細部までこだわっており、地元の人たちに愛されている。
3代目天野栄太郎さんに天野醤油について伺った。
昭和12年、祖父福太郎さんが三島で醤油作りの修行をした後
御殿場で蔵を構えたのが天野醤油の始まりだった。
何にもないゼロからのスタート。
だが、富士山の湧水がそこにはあった。
その後、お父さんの泉太郎さんの代に変わり、醤油を使う人から要望のあった無添加の醤油をつくることを始めた。
その時、蔵には醤油の味を豊かにする自然の菌が住み着いていた。
今では静岡県東部の学校給食に“本丸亭”が使われている。
安全で安心して使えるお醤油を作るために受け継がれてきた伝統は今、じっくりと時間と愛情をかけて
天然醸造という形で丁寧に守られている。
工場のを見せてもらうと
想像していた以上に限られたスペースで全工程が行われていた。
この場所に大分の一等の大豆、北海道の麦、鳴門の塩、そして富士山の水。
選び抜かれた素材が運び込まれる。
大きな機械で大豆が蒸されている横では小麦が炒られていた。
そしてその奥には小さな扉。
そこでは3日間かけて大豆が麹へ。
メガネやレンズが一瞬で曇ってしまうほどの室内は一定の温度と湿度で保たれている。
その後、麹と食塩水を混ぜ合わせ発酵熟成させる。
そして天野醤油の味を決めるのが蔵に住み着いている菌、
黒ずんでいるところにいるそう。
運命とでもいうのだろうか、伝統を守り真剣に作る醤油の蔵にはおいしくしてくれる菌が住み着いて離れない。
こうして発酵熟成されたもろみを布に包んで絞る。
ゆっくりとじっくりと絞り出される“なましょうゆ”
そして火入れをして、色、味、香りを整える。
さらに品質検査をし味だけでなく安全も。
出来上がったばかりの醤油を口にしたときに“んっ?”と思った。
ちょっと“抵抗感”を感じた。
この“抵抗感”は生きた醤油だからだ。
それはすぐにおいしさに変わる。
発酵食品の大切な要素を体に運んでくれる。
そして、工場長の天野幸吉さんが大学を卒業後日本一の醤油を作りたいと
始めたのが山口県発祥の“甘露醤油”
これはもろみを作る際の食塩水を生醤油で行うことによって塩分が控えられると同時に深みのある味になる。
2年以上の歳月と2倍の原料を使用した、醤油の中の最高級品。
2000年度には農林水産大臣賞を受賞。全国の甘露醤油の基準にもなっている。
“今の大きさのままこの場所で醤油を作り続けていくこと”
そう栄太郎さんは言う。
住み着いた酵母菌は宝だ。
醤油は調味料だからと侮ってはいけない。
生きている醤油は素材をさらに活かしてくれる。
そして体も活かしてくれる。
愛情と歴史が作り出す醤油が食卓を支えてくれる。
≪天野醤油≫
御殿場市御殿場139-1
TEL: 0550-82-0518
http://www.gotemba.or.jp/i/amano/