沼津駅南口の改札を出て正面に見えるビルは沼津西武百貨店に代わり、2014年にラクーンという複合施設になった。
ラクーンは各階によって様々な顔を持つ。
実は8階、すべての壁や装飾が取り壊されたスケルトンの状態で普段は利用されていない。
かつての活気を失った場所は、”パフォーミングアーツ”により命が吹き込まれた。
“パフォーミングアーツ”をとは演劇・舞踊など、肉体の行為によって表現する芸術だ。
このパフォーミングアーツを主軸にした団体が静岡東部に誕生した。その名はScale Laboratory(スケイルラボラトリィ、通称スケラボ)。
今回、代表を勤める川上大二郎さんにお話を伺った。
スケラボという呼び名で親しまれているスケイルラボラトリィ。
“スケイル”には計りや縮尺、“ラボラトリィ”は実験という意味があるのだが、
その言葉の奥には、“生活の楽しみ”を、尺度や見方、めもりを変えてみると面白くなるのではないかという意味が込められている。
スケラボの活動の大きな軸はパフォーミングアーツを観せるということ。
街の使われなくなった場所を使用し、『場』をとりまく環境に関わりを持つ人たちが増え、
そのやり方を地域の人と共有していく。
土壌を作りいずれは彼らたちで新しいアイディアや活動が生まれるのをサポートすることも視野に入れている
川上さんはオペラや演劇などの舞台監督として全国、また世界で活躍されている。
そんな川上さんに熱海にあるmachimoriの市来さんから、熱海銀座にある空きビルで何か出来ないかという相談があった。
元々仲間と一緒に自邸で開いていたデッサン会を開催する事になった。
そのとき舞踏家である山海塾の松岡大さんにデッサンのモデルをお願いしたことから“パフォーミングアーツ”を主軸とするスケラボのアイディアが浮かんだ。
「松岡さんを描くにあたり、これは踊りも見せたほうがいいって思った訳ですよ。
モデルとして描いた人をダンサーとして観るっていう行為をした時に、
ただ見せられてるよりもみんな一歩踏み込んでみれてた。で、これはいいなと思って」
こうしてスケラボが誕生した。
舞台監督である川上さんは、年間通して面白いパフォーマーとよく出会う。
地方でちょっと見たことないだろうなと思うパフォーマーが多いそう。
「予算などの関係で、たとえば(客席数が)100人しか見られないようなものって地方での公演はあまりないので、強制的に見せちゃおうっていう、
どっか企みみたいなものはありましたけど。」
とおちゃめに語る川上さん。
たしかに地方で芸術に触れる機会は東京などの主要都市と比べると格段に少なくなる。
そういうところにもスケラボは切り込みながら地方芸術を支える存在になっている。
新しい使い方や『場の価値』を提案するスケラボ。
2016年8月、ラクーンの店舗開発担当者がスケラボの活動を知り、スケラボによりラクーン8階の使い方を試してみることになった。
11月、“くるくるシルク”さんによる「シルク!シルク!! シルク!!!」という現代サーカスが行なわれた。
0歳児から90歳まで幅広いお客さんが集まり、全員が目をキラキラさせながらスケルトンになった殺風景な空間で起きる非日常を楽しんでいた。
さらに、くるくるシルクのメンバーから直接、皿回しやジャグリングを習うことが出来るワークショップも開催されるなど、見るだけではなく触れることができた。
「「くるくるシルクさんはよくツアーをこなしてらっしゃって、
どんなアウェーでも楽しませるスキルをもっている人たちだし、ワークショップもできる。
観るだけでなく体験も含めて興味の幅を広げられるな。と思って」
今回取材には0歳9ヶ月の娘も同行したのだが、
1時間以上の公演を飽きることなく目を輝かせ時々リアクションをしながら見ている姿に親バカながら感動した。
どうしても“芸術の場”には乳幼児連れ特有のあきらめがつきまとっていたが、
パフォーミングアーツという世界、スケイルラボラトリィが生み出す場には
年齢関係なく参加できるんだということを思い知った。
そんな新米親子にとっても懐深く受け止めてくれたスケラボ。
パフォーミングアーツは芸術好きな人だけのものではなく、みんなに楽しむチャンスがあることを教えてくれた。
そして、今まで見ることのなかったラクーン8階から見る沼津の景色に心が震えた。
今後のスケラボは、まずは伊豆東部を中心に活動していく。
熱海、三島、沼津、函南と展開し半島を南下していき最終的には各地と連携してきたいとのこと。
「何組かのアーティストを伊豆半島でツアーでまわしちゃうとか
そういうことが出来るといいのかなと。そうすると長期雇用につながるんで、
そうするといろんな人に見てもらえる機会を増やせるかもしれない。」
と川上さんは言う。 “パフォーミングアーツ”はパフォーマー、観客、地域、あらゆるところへ可能性があることを感じた。
それでも“パフォーミングアーツ”という聞き慣れない言葉に飛び込むにはもう少し勇気が必要かもしれない。最後に川上さんにそんな時はどうすればいいのか伺った。
「何をやるにしても一緒だと思っていて、例えば楽器習うとかでも一緒かなと思うんだけど
興味を持つっていうこと。あと、好奇心とか想像力が大事だなと思ってて。
今ね、答えがあるとか、解き方がわかるものをやることが主流になっちゃっていると思うのね。
ゴールがある。だけど、コンテンポラリーとかって見てもわからない答えがない、
アンサーがないのね。そういういうものをみて無理矢理でも理屈を付けたり、
自分で腑に落ちる作業をするとあらゆる人生の理不尽対してちょっと対応ができるようになったりするかなって、そういうのもあるかなって。」
スケラボは年間を通して、場所を固定せず静岡東部で活動しているので“演目” “場所”や
“日にちが合う”などなんでもいいので興味を持って思い切って参加してみてほしい。
そうすればひとの人生にも、街にも“もっと楽しく”することのできるものさしが手に入るだろう。
写真:行貝チヱ
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Scale Laboratory(スケイルラボラトリィ)
HP: http://scalelabo.jp
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