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沼津アルプスのふもとにはみかん農家が広がる。
その中の一つ多比地区の森幸農園。
お気に入りの場所は農園の上の方から見える海。
“本当すごい良い眺めなのよ”
と連れて行ってくれた。
山と海が密接に繋がっているのを肌で感じるような眺め。
海風と山風に吹かれるみかん農園。
一日中日が当たるところにある位置もこの農園の特権。
実はお母さんの代で継手がいなくなるはずだった。
そこで娘の畑田さんが手を挙げた。
結婚して静岡で暮らしていた畑田さん。
この素晴らしい農園を途絶えさせたくない一心で沼津へ戻ってきた。
お姉さんが静岡に行っている間、守ってきた妹の山口さん。
この二人の姉妹ですばらしい農園は守られている。
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“もう終わると思っていたのにね。本当にありがたいこと”
と照れくさそうにお母さんが笑った。
沼津アルプスの登山口・多比のほど近く。
急斜面に広がるみかん農園。
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去年、みかんの木が猪の被害にあってしまった。
猪は柵を破り、木の幹ごとみかんを食い荒らした。
今でも何本かその傷跡がのこる。
手塩にかけて育てたみかんが一晩で、
それも幹ごとたおされ、食い荒らされた。
“うちのみかんはおいしいから、猪もよほど気に入ったのね”
と笑って振り返る過去には悔しい想いが滲む。
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この経験したからこそ今年の豊作は一際幸せに感じる。
その想いを詰め込んだみかんジャムがある。
“だからジャムを作ることにしたの。もったいないから。
たくさんなってくれたから捨てるのはもったいない”
もともと静岡にいた時にヨーグルトに合わせてジャム作りをしていたのでその要領でジャムを作った。
ひとつずつ向いてそのままミキサーにかけて。
今は畑田さんの妹、山口さんにバトンタッチをしてからさらに研究を重ね
ひとつひとつ皮を手でむき、
口当たりをよくするためにみかんの白いスジまで丁寧に取っている。
そこにグラニュー糖をまぶして煮詰める。
本当に手の込んだ作業。
マーマレードと違って皮が入っていないので苦味はなく
やさしい甘さと、ちょうどよいみかんの酸味。
ここのみかんの特徴は甘いだけではなく、ちゃんとみかんの酸味があって
甘酸っぱさがなんとも絶妙。
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山口さんのジャムの人気は高い。
気づけばレモンや夏みかん、イチゴ、びわ、梅など年間を通してつくるようになったそう。
姉妹によってそれぞれの役割を持って守られるみかんの味は甘酸っぱくみずみずしい。
大切にする想い、代々受け継がれてきた森幸農園のみかんを守り続ける想いが詰め込まれたみかん、
そしてジャムを味わっていただきたい
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≪森幸農園≫
静岡県沼津市多比143
TEL:055-939-0006