浄瑠璃や歌舞伎の題材として敵討ちがある。
その題材の中でも有名な一つに沼津での物語がある。
それは伊賀越道中双六(いがごえんどうちゅうすごろく)の“沼津の段”だ。
敵を追う主人公たちの移動につれてさまざまな人々の義理と恩愛とにからんだ悲劇が次々と東海道筋に展開されていく。
沼津警察所裏の狩野川のほとりに、この物語の地蔵尊があり毎年7月にお祭が行われ沼津の人々に親しまれている。
「沼津の段」は屈指の名場面とされ、親子兄妹の悲しい対面の物語が感動を呼ぶ。
この沼津の段は単独でもたびたび上演されるほど。
今回はその沼津の段が上演されるということで国立劇場に歌舞伎を見に行った。
さらに今回は通し狂言の伊賀越道中双六(いがごえんどうちゅうすごろく)。
江戸時代後期から一つの演目を通しで上演することは珍しいらしい。
前後がわかるということでより沼津の段がよ楽しめるとのこと。
国立劇場は半蔵門駅から徒歩3分、正面に行くとのぼりやちょうちんが飾られている。
パンフレットを買って席に着く。
まずパンフレットで物語の内容を確認。
人それぞれだがある程度物語をわかったうえで見ることによって
理解しながら見ることができるのでちょっとしたユーモアにも気づくだろう。
加えて音声案内を借りるのも手だ。
幕が開き、着物に身をつつみ独特な化粧をした女形の人たちが話し出す。
“思ってたよりも言葉が聞きやすい”
のが第一印象。
歌舞伎に対して“難しい”と思ってたがそんなことはなく
すんなりと入り込むことができた。
そして舞台の両端には
語り手と尺八、太鼓。。。
生の音色が響き渡る。
歌でもなくでも、ただしゃべっているのではない独特な語り口調。
そして客席から名場面などで「よっ!」という声や各役者の所属先の名前を呼ぶ声が飛ぶ。
慣れていない私は、驚くことが多い。
歌舞伎では休憩が何度かある。
一番長い35分間の休憩で多くの人はお昼をとる。
開演前にレストランの食事も予約でき、
ビーフシチューやチラシ寿司などバリエーションも豊か。
もちろんお弁当やサンドイッチも売っている。
持ち込みも大丈夫だ。
開演中は食事はできないが休憩中は客席でご飯を食べても大丈夫だそう。
私はローストビーフサンドイッチ800円を買って外のベンチで食べた。
つかのまの休憩をはさみ、3幕はいよいよ沼津の段。
最初の屋敷のセットはがらりと変わり
富士山と松。そして川。
親しみ深い景色へと変わる。
東海道宿場町、沼津。
1里と短いながらもかつてあった三枚橋城と狩野川を迂回するようにかくかくと曲がり進む道。
その面影は今では看板などささやかながら沼津に残っている。
会場のロビーには土産物屋やお弁当屋などが並ぶ。
歌舞伎揚げのお菓子のパッケージでおなじみのカラーにちょうちん。
ちょっとしたテーマパークのようでわくわくする。
今回は沼津の段と絡めて沼津物産協議会による店舗も出店していた。
お茶、ひもの、平作もなかなどの沼津を代表する物産が並ぶ。
伊賀越道中双六をテーマにした「平作もなか」を創業よりつくるいせや本店代表の居山直行さんに話を伺った。
いままでも小劇場では演目がかかるときに販売していた。
今回、初めて大劇場平作もなかが並ぶ。
なぜ平作もなかが出来上がったのか。
“戦前戦後このあたりは大きな企業でいっぱいだった。
その中で、接待につかう料亭やお土産に菓子屋、
このあたりのお店は新商品を作ろうといつも考えていた。
その中で先代がこのテーマに目を付けたのが始まり”
いせや本店が題材にしているもの、
平作のほかにも、江原素六や千本松、狩野川。
決して、派手ではないが地元になくてはならないもの。
そして地元のベースを作ってきたもの。
今では国立劇場と一緒に物産を販売や企画をしたりと
歌舞伎にも力を入れている。
修行をしていた大阪のお店の近くにも浄瑠璃の劇場があったらしく
“歌舞伎を題材したお菓子を作り、今こうやって歌舞伎にかかわっているのは運命なのかも”
と。
沼津という地が過ごした時の流れ。
その流れを歌舞伎で表現すること
お菓子で表現すること。
東海道が残していく物語、そして伝統芸能である歌舞伎は
今もこれからも続いていく。
≪国立劇場≫
東京都千代田区隼町4-1
TEL:03-3265-7411
★通し狂言伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく) 四幕七場は2013年11月26日(火)まで開催中
≪いせや本店≫
静岡県沼津市幸町2番地
TEL:055-962-0222 / FAX:055-962-0223